犬は人の顔と声を組み合わせて見ている?

1.笑顔なのに、声は怒っていたら?

私たちは犬に話しかけるとき、「言葉」を伝えているように感じます。

このとき、同じ言葉でも、笑顔で話すときと険しい顔で話すときでは、犬が受け取るものも違うのでしょうか。飼い主が笑顔なのに声は怒っているなど、顔と声が食い違っていたら、犬はそれに気づくのでしょうか。2026年8月にScientific Reportsで発表された麻布大学、奈良先端科学技術大学院大学などのチームによる研究では、犬の脳波を測定することで、この疑問を調べました。

2.犬に「顔」と「声」を見せる実験

研究に参加したのは3頭の家庭犬です。犬たちには、「幸せそうな飼い主の顔」「怒っている飼い主の顔」を見せながら、「幸せそうな声」「怒った声」を聞かせました。

そして、顔と声が一致する組み合わせである「幸せな顔+幸せな声」「怒った顔+怒った声」と、一致しない組み合わせである「幸せな顔+怒った声」「怒った顔+幸せな声」を作ります。そのときの犬の脳活動を、頭皮から測定するEEG(脳波)で調べました。

3.顔と声が食い違うと、脳の反応が変わった

顔と声の感情が一致していないとき、犬の脳では、一致しているときとは異なる反応が確認されました。特に、声が聞こえてから約250〜500ミリ秒後の脳活動に違いが現れました。

この結果から、犬が人の顔と声を、それぞれ別々の情報として受け取っているだけではなく、両者の組み合わせにも反応している可能性が考えられます。

つまり単に「顔を見る」「声を聞く」というだけではなく、「この顔なのに、この声?」という食い違いに対して、犬の脳が何らかの反応を示している可能性があります。

この反応が見られた時間帯は、人で「予想外の情報」や「意味の不一致」を処理するときに現れる脳活動と重なります。ただし、犬の脳でも同じ働きをしていると確認されたわけではありません。

4.「犬は人の感情を理解している」とはまだ言えない

この研究はとても興味深い一方、参加した犬は3頭だけです。さらに、

EEG測定に慣れた犬だった

調べた感情は「幸福」と「怒り」

相手は知らない人ではなく飼い主

今回犬で見られたERPの変化が、人で見られるものと同じ働きをしているかは分からない

などの制約があります。そのため、「犬は人間の感情を理解していることが分かった」とは言えません。これは、犬が人の顔と声の感情的な組み合わせに反応している可能性を、脳活動から示した初期的な研究として捉えたほうがよさそうです。

5.犬が受け取っているのは、言葉だけではない

たとえば、私たちは犬に「大丈夫だよ」「怖くないよ」と話しかけることがあります。そのとき、人は言葉そのものを犬に伝えているように感じるかもしれません。

しかし、声の高さや強さ、表情、身体の動き、その場の状況なども、犬にとっては情報になっているのかもしれません。

今回の研究で調べられたのは顔と声ですが、実際の犬の暮らしには、身体の動きや匂い、周囲の環境など、もっと多くの情報があります。

私たち人間は、犬に言葉をかけるとき、その「言葉」だけが伝わっているように考えてしまうことがあります。

しかし犬が受け取っているのは、言葉だけではないのかもしれません。顔、声、身体の動き、匂い、そのときの状況など、さまざまな情報の中で人を見ている可能性があります。

犬は、私たちが思っている以上に、私たちのいろいろなところを見ながら暮らしているのかもしれません。

参考文献

Koike, H., Kubo, T., Maruno, Y. et al. (2026). Event-related potentials to emotional incongruence in dogs using non-invasive EEG. Scientific Reports. https://doi.org/10.1038/s41598-026-66970-8

本記事(画像を含む)は著作権で保護されています。複製・転用は法律により禁じられています。
犬研の情報の扱い方について
藤森

犬研|犬の行動を知り、犬との暮らしを考える

関連記事

目次