
散歩中、何を嗅いでいるのだろう?
私の犬の散歩の様子を見ていると、アスファルト、落ち葉、草、電柱、塀、木、落ちた柿、ミミズの死がいなど、いろいろなものに鼻を近づけます。散歩中のにおい嗅ぎを観察してみると、止まってにおいを嗅いでマーキングすることもあれば、においを嗅いで立ち去ることもあります。また歩きながら地面に鼻を近づけてにおいを嗅ぐこともあります。
草のにおいを嗅いでいるのかと思ってよく見ると、一部に濡れた跡があって、そこを中心に嗅いでいることもあります。ただ、その濡れた跡が何によるものなのかは、見ただけでは分かりません。鼻を近づけているものが見えていても、犬が実際に何のにおいを調べているのかは、簡単には分かりません。
では散歩中に犬はどんなにおいを調べているのでしょうか。
犬は他の犬のにおいをどう調べるの?
散歩中に犬が何のにおいを嗅いでいるかを知ることは、なかなか難しいですが、研究者の実験では、調べる対象をあらかじめ用意するため、そのにおいに犬がどのように反応するのかを調べることができます。
Lisberg & Snowdon(2009)は、40頭のラブラドール・レトリーバーに、他の犬の尿や水を付けた木の杭を提示し、それぞれを調べる時間を測定しました。犬たちは、水を付けた杭よりも尿を付けた杭を長く調べました。さらに尿の場合では、犬の性別や去勢・避妊の有無によっても、調べる時間に違いが見られました。
この研究から、犬は他の犬の尿に対して、いつも同じように反応するわけではないことが分かります。
研究者は、尿が他の犬についての情報源になっている可能性を考察しています。ただし、犬が尿から具体的にどのような情報を読み取っていたのかまでは分かっていません。
他の犬に由来するにおいは、尿だけではありません。犬の肉球や指の間には分泌腺があり、足からもにおいが生じています。McClanahan & Rosell(2020)は、犬の足を綿棒でこすってにおいを採取し、別の犬に嗅がせました。比較のために、地面を綿棒でこすったものも用意しました。その結果、オス犬は、地面をこすった綿棒よりも、他のオス犬の足をこすった綿棒を長く嗅ぎました。一方、メス犬では嗅いだ時間に明確な違いは見られませんでした。
犬が歩いたあとにも、足由来のにおいが地面に残っている可能性があります。ただし、この研究では実際の足跡を調べたわけではないため、犬が散歩中に他の犬の足跡を嗅いでいるかどうかまでは分かりません。
犬が調べるのは、他の犬のにおいだけではない
犬は食べ物のにおいも調べます。Pételら(2018)の研究では、2つの食器に同じドッグフードを入れ、一方の食器の下には肉由来の香りを持つ物質を、もう一方には水を置いて比較しました。犬が直接食べるものは同じなのに、香りのある食器の方が多く選ばれました。
一方、食べ物そのものを選ぶ場合と、においだけを選ぶ場合を比較した研究もあります。
Hallら(2017)は食べ物の好みと、においだけの好みを比較しました。食べ物そのものを提示した場合には、明確な好みが見られましたが、においだけを提示した場合には、においの間で明確な好みは確認できませんでした。食べ物そのものには明確な好みがあるのに、そのにおいだけを比較すると明確な好みが確認されないということになります。これは、「においを嗅ぐこと」と「食べること」を分けて考える必要がありそうです。
私の犬も、地面に落ちた柿を嗅いで、そのまま食べずに立ち去ることがあります。においを嗅いでいるからといって、食べようとしているとは限らないのかもしれません。
また、食べ物以外にも、植物はさまざまなにおいを放出しています。
Shiojiriら(2012)は、植物の葉が傷つくと、放出される物質が変化することを調べました。Grayら(2010)は、落ち葉が分解される過程で、微生物の働きによって放出される物質が変化することを報告しています。
生きている葉や茎、地面に落ちた葉も、さまざまなにおいの発生源になっています。ただし、これらは植物や落ち葉から放出される物質についての研究であり、犬が実際にそのにおいを調べているのかは分かりません。
では、うちの犬は何を嗅いでいる?
これまで、草や落ちた柿など、鼻を近づけているものを見て、何のにおいを嗅いでいるのか想像していました。しかし、研究を調べてみても、私の犬が実際に何のにおいを嗅いでいるのかは分かりません。
それでも丁寧に見てみると、何度も行ったり来たりするときもあったり、回り込んで裏側まで嗅ぐときもあります。見れば見るほどよく見たくなり、散歩がますます楽しくなります。
参考文献について
この記事では、他の犬の尿に対する反応についてLisberg & Snowdon(2009)、犬の足から採取したにおいへの反応についてMcClanahan & Rosell(2020)を参考にしています。
また、食べ物の選択におけるにおいの影響についてPételら(2018)、食べ物そのものとにおいだけに対する好みの比較についてHallら(2017)を参考にしています。
植物については、葉が傷ついたときに放出される物質についてShiojiriら(2012)、落ち葉の分解によって放出される物質の変化についてGrayら(2010)を参考にしています。なお、これら2つは植物や落ち葉の研究であり、犬の行動を直接調べたものではありません。
参考文献
Lisberg, A. E., & Snowdon, C. T. (2009). The effects of sex, gonadectomy and status on investigation patterns of unfamiliar conspecific urine in domestic dogs, Canis familiaris. Animal Behaviour, 77(5), 1147–1154.
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2008.12.033
McClanahan, K., & Rosell, F. (2020). Conspecific recognition of pedal scent in domestic dogs. Scientific Reports, 10, 17837.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-74784-5
Pétel, C., Baron, C., Thomsen, M., Callejon, L., & Péron, F. (2018). A new method to assess the influence of odor on food selection in dogs. Journal of Sensory Studies, 33(1), e12311.
https://doi.org/10.1111/joss.12311
Hall, N. J., Péron, F., Cambou, S., Callejon, L., & Wynne, C. D. L. (2017). Food and food-odor preferences in dogs: A pilot study. Chemical Senses, 42(4), 361–370.
https://doi.org/10.1093/chemse/bjx016
Shiojiri, K., Ozawa, R., Matsui, K., Sabelis, M. W., & Takabayashi, J. (2012). Intermittent exposure to traces of green leaf volatiles triggers a plant response. Scientific Reports, 2, 378.
https://doi.org/10.1038/srep00378
Gray, C. M., Monson, R. K., & Fierer, N. (2010). Emissions of volatile organic compounds during the decomposition of plant litter. Journal of Geophysical Research: Biogeosciences, 115(G3), G03015.
https://doi.org/10.1029/2010JG001291
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