まず最初にアニマルウェルフェアを考えよう

目次

アニマルウェルフェアとは

 アニマルウェルフェア(Animal Welfare)という言葉をご存知でしょうか。日本語では動物福祉と訳されることが多いですが、微妙に違うという意見もあります。ウェルフェアは「意識」重視しているのに対し、福祉は「命」を重視していると言われます。ここでは「意識」にフォーカスし「苦痛や不快のない喜びに満ちた状態」をアニマルウェルフェアの意味として捉えていこうと思います。

5つの自由(Five Freedoms)

 イギリスでは1960年代に、密集した家畜の飼育方法に対して疑問の声が上がってきました。そうした声を受けて1965年にイギリスのロジャー・ブレンメルが中心となり「Brambell Report」が作成されました。このレポートでは、密集した集約畜産での虐待性や、それを防止するための飼育方法の基準化を示しました。Brambell Reportを受けて、英国農業動物福祉審議会(Farm Animal Welfare Council,  FAWC)が「5つの自由」を制定しました。現在では世界中の多くの機関が、この考えをアニマルウェルフェアの定義として採用しています。

1. 飢えと渇きからの自由
(給餌・ 給水の確保)

Freedom from Hunger and Thirst: by ready access to fresh water and a diet to maintain full health and vigor.

2. 不快からの自由
(適切な飼育環境の供給)

Freedom from Discomfort: by providing an appropriate environment including shelter and a comfortable resting area.

3. 痛み、怪我、病気からの自由 
(予防、診断治療の適用)

Freedom from Pain, Injury or Disease: by prevention or rapid diagnosis and treatment.

4.正常な行動をとる自由
(適切な空間、刺激、仲間の存在)

Freedom to Express Normal Behavior: by providing sufficient space, proper facilities and company of the animal’s own kind.

5. 恐怖と苦痛からの解放
(適切な扱い)

Freedom from Fear and Distress: by ensuring conditions and treatment which avoid mental suffering.

思わぬところにある苦悩

 ご飯はちゃんとあげているし、お水も定期的に交換している。散歩も毎日行っているし、体調が悪いときは動物病院に行っている。犬を叩いたり、尻尾を引っ張ったり、チョークチェーンやショックカラーは使わない。このような人がほとんどだと思います。この場合でも苦痛や不快は少ないですが、犬は思わぬところでストレスを抱えていることがあります。

 例えば、豚は本来6〜8時間かけて探索をし食餌をするそうです。鼻で土を掘り返し、ミミズや球根、木の根などを食べます。雑食のため両生類や、鳥の雛や卵、死肉や子羊なども採食するそうです。一方畜産では、餌を与える方法で飼育しているため、食餌には30分ほどしか掛かりません。お腹は満たされるが、食べるという行為が満たされない状態になります。こうした苦悩を解消するために、他の豚に負傷を負わせたり、他の豚の尻尾をかじる「尾かじり」を行ったりします。

 この「尾かじり」は、放牧されている豚では被害が発生しないことが報告されていることから、飼育環境下では豚本来の行動ができないために、代替として発生していると考えられています。
 これを犬に置き換えてみるとどうでしょうか。ご飯をちゃんとあげているつもりでも、もしかすると犬の「食べるという行為」は満たされていないかもしれません。散歩でただ歩いているだけでは、匂いを嗅ぎたい欲求や、探索したい欲求、走りたい欲求は満たされないかもしれません。家の中でサークルやクレートで長い時間過ごすことは、自由に動き回りたい欲求を奪っているかもしれません。
 これは「5つの自由」の4と5にあたります。犬本来の行動を発現させ、心理的な満足感が得られているか。というところです。この部分はQOL(Quali tofy life)と言い換えて呼ばれることがあります。QOLが高い低いという話が出てきたときは、この4と5を思い出してください。

生活習慣・生活環境を見直す

 実はこのアニマルウェルフェアが十分であると、犬の問題行動とされるものが、起きにくい、あるいはなくなった、減ったということに繋がります。犬が抱える苦痛や苦悩がなくなれば、何か特別なトレーニングをしなくても、犬の行動は改善されることが多いです。ときどき思い出して、うちの犬は満たされているかな? 苦悩や苦痛はないかな? もっと喜べることはないかな? と考えて実行してみてください。

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参考文献
石川 創, (2010), 動物福祉とは何か, 日本野生動物医学会誌, J-STAGE, https://doi.org/10.5686/jjzwm.15.1
内田 圭子, 菊水 健史, (2008), 犬と猫の行動学 基礎から臨床へ, 東京都, 学窓社
佐藤 衆介, (2005), アニマルウェルフェア―動物の幸せについての科学と倫理, 東京都, 東京大学出版会
園田 裕太, 大石 風人, 熊谷 元, 広岡 博之, (2019), アニマルウェルフェアが牛肉の生産性や消費者のニーズに与える影響, 日本畜産学会報, J-STAGE, https://doi.org/10.2508/chikusan.90.1
認定NPO法人アニマルライツセンター, (2016), 本当の豚の習性を知ってる?本来の豚の生態を知ろう, HOPE for ANIMALS, https://www.hopeforanimals.org/pig/405/
渡邊 哲夫, 野口 宗彦, 沼野井 憲一, 長谷山 聡也, 青山 真人, (2015), ブタの尾かじり被害を軽減する飼養管理法の検討, 日本養豚学会誌, J-STAGE, https://doi.org/10.5938/youton.52.3_123
FAWC, (2009), Five Freedoms, FAWC(Farm Animal Welfare Council), https://webarchive.nationalarchives.gov.uk/ukgwa/20121010012427/http://www.fawc.org.uk/freedoms.htm

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