メス犬も足を上げてオシッコをするの?

動物行動学者のBekoffの調査によると、自由に放浪する犬の排尿行動を調べたところ、オスの排尿行動のうち97.5%が足上げの排尿を行い、メスの67.6%がしゃがんで排尿を行うそうです(Bekoff, 1980)。
Bonnieの調査では、オスの97%が足を上げて行い、 メスの68%がしゃがんで行うそうです(Bonnie, 2008)。
こうした調査から、メスでもおよそ3割は、排尿の際に足を上げて行うことが分かりました。

犬の排尿には、排泄とマーキングという2つの目的がありますが、Sharonらの調査では、メスのジャックラッセルテリア6頭の排尿行動を調べたところ、家から離れたところでは、家の近くを散歩しているときよりも、頻繁に排尿したり、物に向けて排尿する傾向があったそうです。メス犬の排尿行動も、排泄だけではなく、マーキングとしても重要な役割を果たしているとみられています(Sharon, 2004)。

交尾経験のあるオス犬は、休情期のメスの尿よりも、発情期中のメスの尿の臭いをより丁寧に嗅ぐことが実験で明らかになっています(Doty ら, 1974)。メス犬は発情期が来ると、広く周囲のオス犬たちに知らせようとします。すると、散歩コースに少量の排尿をする回数が増え、性ホルモンをマーキングによって繁殖期を知らせる行動が見られるようになります(小暮, 1998)。
これは潜在的な交尾相手に、自らの受け入れ状態の事前アピールを行っていると考えられています(Thorne,1997)。

また、野生のオオカミでは、群れの性的に成熟した地位の高い個体であれば、オスメス問わず足を上げて行うことが確認されています。
ブロッホの観察では、地位の高いオスとメスの両者がマーキングを行い、両者の頻度は同じだそうです。これは繁殖ペアが協力して、縄張りの防衛のために行っているとみられています(ブロッホ, 2017)。

メスが足を上げて行うマーキングは、メス犬特有の発情期の情報に加え、オス犬と同様に縄張りに関連した匂い付けの意味があると考えることができます。

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参考文献
小暮 規夫. (1998) 動物たちの嗅覚と行動, 日本鼻科学会会誌, J-STAGE, https://doi.org/10.7248/jjrhi1982.37.1_1
ツィーメン E. (1977) オオカミとイヌ (世界動物記シリーズ ; 18), 東京都, 思索社
ツィーメン E. (1995) オオカミ―その行動・生態・神話, 東京都, 白水社
Bekoff M. (1980) Accuracy of Scent-Mark Identification for Free-Ranging Dogs, Journal of Mammalogy, https://doi.org/10.2307/1379976
Bonnie V.B. (2008) Canine Behavior Insights and Answers. Philadelphia, Saunders
Sharon C.W. McGuire B. (2004) Urinary behavior of female domestic dogs (Canis familiaris): influence of reproductive status, location, and age. Applied Animal Behaviour Science, ScienceDirect, https://doi.org/10.1016/j.applanim.2003.09.012
Doty R.L. Dunbar I. (1974) Attraction of beagles to conspecific urine, vaginal and anal sac secretion odors. Physiology & Behavior, ScienceDirect, https://doi.org/10.1016/0031-9384(74)90020-1

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