
はい。メス犬も足を上げておしっこをすることがあります。
「オス犬は足を上げる、メス犬はしゃがむ」というイメージがあるかもしれません。でも、実際の犬の排尿姿勢は、それほど単純ではありません。
研究でも、メス犬にはしゃがむ姿勢だけでなく、後ろ足を上げる姿勢や、しゃがみながら片方の後ろ足を上げる姿勢など、いくつもの形が観察されています。
散歩中、「メスなのに足を上げた」と驚いたことがあるかもしれません。けれど、足を上げる姿勢だけを理由に、何か異常があると考える必要はありません。
では、メス犬はどんな姿勢でおしっこをしているのでしょうか。
メス犬のおしっこ姿勢は一つではない
Wirant & McGuire(2004)は、メスのジャックラッセル・テリア12頭を対象に、散歩中の排尿行動を観察しました。12頭のうち6頭は避妊済み、6頭は未避妊で、未避妊の犬は観察時には発情期ではありませんでした。
研究では排尿姿勢をいくつかに分けて記録しています。たとえば、
しゃがむ
しゃがみながら片方の後ろ足を上げる
片方の後ろ足を上げる
といった姿勢です。この研究で多く観察されたのは、単純にしゃがむ姿勢だけではなく、しゃがみながら片方の後ろ足を上げる「squat-raise」という姿勢でした。また、どの姿勢をどのくらい使うかには、犬によるかなりの違いもありました (Wirant & McGuire, 2004)。「メス犬はしゃがんでおしっこをする」と一つの姿勢で考えるより、実際にはいろいろな姿勢がある、と考えたほうがよさそうです。
同じ犬でも、場所によって変わる
さらにこの研究では、犬が暮らしている場所の周辺を歩く場合と、そこから離れた場所を歩く場合を比較しています。すると、自宅周辺から離れた場所では、犬はより頻繁に排尿し、木など周囲の対象物に向けて排尿する割合も高くなりました (Wirant & McGuire, 2004)。
つまり、排尿のしかたは「その犬はいつもこうする」というものでもなく、どこにいるかによって変わることがあるわけです。
そう考えると、「足を上げたか、上げなかったか」だけを見るよりも、
どこでしていたのか。
何に向けてしていたのか。
その前には何をしていたのか。
と少し範囲を広げて見ると、違ったことが見えてくるかもしれません。
足を上げたら「マーキング」?
犬が足を上げておしっこをすると、
「マーキングをしている」と思うこともあるでしょう。
ただ、足を上げたという姿勢だけから、その排尿の意味を決めることはできません。
排尿についての研究では、単に排尿した回数だけでなく、木や草、物など、周囲の対象物に尿を向けたかどうかを記録することがあります。
Wirant & McGuire(2004)でも、こうした「対象物に向けた排尿(directed urination)」が調べられています。またMcGuire(2016)は、2か所の動物保護施設で500頭の犬を散歩させ、そのときの匂い付けに関連する行動を観察しました。その研究では、オスのほうがメスより頻繁に排尿し、対象物に向けて排尿する割合も高いという違いが見られました。一方、対象物に向けた排尿はメス犬にも見られています。また、年齢による違いも報告されました (Wirant & McGuire, 2004)。
排尿は身体から尿を出す行動であると同時に、匂いを介した犬同士のコミュニケーションにも関わると考えられています。ただ、「これは排泄」「これはマーキング」と、目に見える一つの姿勢だけから二つに分けてしまうのは難しそうです。
発情周期によって変わることもある
また、未避妊のメス犬の発情周期と排尿行動との関係も調べられています。Wirant、Halvorsen & McGuire(2007)は、未避妊のジャックラッセル・テリア10頭について、発情休止期、発情前期、発情期の排尿行動を比較しました。その結果、周囲の対象物に向けた排尿の割合は、発情休止期よりも発情前期・発情期で高くなりました (Wirant、Halvorsen & McGuire, 2007)。
これは、メス犬の尿による匂い付けが、生殖状態についての情報と関係している可能性を示す結果です。ただし、この研究の対象は10頭のジャックラッセル・テリアです。研究者自身も、ほかの犬種やミックス犬にも同じ結果が当てはまるかについては、さらにデータが必要だとしています (McGuire, 2016)。
ですから、「発情期だから足を上げる」と個々の犬の行動を説明できるわけではありません。
「メスなのに足を上げた」から、もう少し見てみる
「メス犬なのに足を上げておしっこをした」
そう気づいたこと自体が、その犬を見る一つのきっかけです。次に散歩へ行ったとき、少しだけ続けて見てみると面白いかもしれません。
いつも足を上げるのか。
毎回同じ姿勢なのか。
場所によって姿勢が変わるのか。
木や草、電柱など、何かに向けてしているのか。
その前に匂いを嗅いでいたのか。
一度の散歩で何回くらいするのか。
一度だけでは分からなかったことも、何度か見ていると、その犬なりのパターンが見えてくるかもしれません。
メス犬が足を上げておしっこをすること自体は、珍しいこととして扱う必要はなさそうです。
一方で、
「足を上げた=マーキング」
「メスだからしゃがむ」
とも簡単には言えません。姿勢だけで理由を決めるより、
いつ、どこで、何に向けて、どんなふうにしていたのか。
そこまで少し広げて見てみる。そうすると、おしっこの姿勢一つからでも、その犬について新しく気づくことがあるかもしれません。
※いつもと違って急に排尿回数が増えた、何度も排尿姿勢をとるのにほとんど出ない、血が混じる、痛そうにしているなどの変化がある場合は、排尿姿勢とは別に身体的な問題も考える必要があります。気になる変化がある場合は獣医師に相談してください。
(この記事は2022年に公開した記事を、現在の犬研の考え方と新しい知見をもとに2026年に書き直しました)
この記事で参考にした研究
この記事では、メス犬の排尿姿勢や場所による違いについてWirant & McGuire(2004)、発情周期と対象物に向けた排尿との関係についてWirantら(2007)、性別・年齢と匂い付けに関連する行動についてMcGuire(2016)を参考にしています。
参考文献
Wirant, S. C., & McGuire, B. (2004). Urinary behavior of female domestic dogs (Canis familiaris): influence of reproductive status, location, and age. Applied Animal Behaviour Science, 85(3–4), 335–348. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2003.09.012
Wirant, S. C., Halvorsen, K. T., & McGuire, B. (2007). Preliminary observations on the urinary behaviour of female Jack Russell Terriers in relation to stage of the oestrous cycle, location, and age. Applied Animal Behaviour Science, 106(1–3), 161–166. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2006.07.005
McGuire, B. (2016). Scent marking in shelter dogs: Effects of sex and age. Applied Animal Behaviour Science, 182, 15–22. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2016.06.001