犬に「別の方法」を増やすには? 分化強化という考え方

犬が何度も吠える。人に飛びつく。物を噛む。

一緒に暮らしていると、「これは少し困ったな」と感じる行動が出てくることがあります。

そんなとき、私たちはつい、

「どうすればやめさせられるだろう」と考えます。

でも、その行動をやめさせることだけが方法ではありません。

犬が別のやり方を選べるようにする。

そんな考え方もあります。

まず、「なぜしているんだろう」と考えてみる

例えば、人に向かって吠える犬がいたとします。

人に気づいてほしくて吠えているのかもしれません。遊びたいのかもしれません。食べ物が欲しいのかもしれません。

一方で、知らない人が怖くて吠えていることもあります。

同じ「吠える」でも、背景はずいぶん違います。

人と関わりたくて吠えている犬と、人に近づいてほしくなくて吠えている犬に、同じ方法を使うのは難しそうです。ですから、最初から「吠えを減らす方法」を探すより、

「この前に何があったんだろう」

「吠えたあとには何が起きているんだろう」

と、少し前後を見てみます。

すぐに理由が分からなくても構いません。何度か見ているうちに、同じような場面で起きていることに気づく場合があります。

そもそも、吠えなくてすむこともある

行動を変える前に、環境を変えた方がよいこともあります。

窓の外を通る人に毎回吠えているなら、外が見えにくくするだけで、吠える場面そのものを減らせるかもしれません。

怖いものに近づくたびに吠えているなら、まず距離を取れるようにした方がよいでしょう。

退屈しているようなら、散歩や匂いを嗅ぐ時間、遊び方を見直すことで変わることもあります。

急に行動が変わったときには、身体の不調も考えます。

犬が行動を起こすたびに人が対応するより、その行動をしなくてもすむように暮らしを変えられないかを考える方がよい場合もあります。

吠える代わりに、何ができるだろう

それでも、人との暮らしの中で調整したい行動はあります。

例えば、人に気づいてほしくて吠える犬がいたとします。吠えることだけをやめさせようとすると、犬には、

「じゃあ、どうすれば気づいてもらえるの?」が残ります。そこで、別の方法を用意します。

人のそばへ来る。

鼻で手に触れる。

おもちゃを持ってくる。

静かに待っている。

その犬が無理なくできて、人にも分かりやすい方法なら、いろいろ考えられます。そして、その方法を使ったときに、人が応じます。

例えば、おもちゃを持ってきたら一緒に遊ぶ。

静かにそばへ来たら声をかける。

四本の足を床につけているときに人が近づく。

こうして、「吠えなくても伝わる」「飛びつかなくても人と関われる」という経験が増えていきます。

こうした、ある行動を減らそうとするだけではなく、別の行動を増やしていく考え方を「分化強化」と呼びます。

「褒めればいい」ということでもない

ここでいう「強化」は、犬を褒めることと同じではありません。

例えば、犬が人のそばへ静かに来たときに体を撫でたとします。

その犬が撫でられることをとても好んでいて、同じ場面で静かに近づいてくることが増えたなら、その関わりが行動を増やすことにつながったと考えられます。

でも、触られることをあまり好まない犬なら、同じことをしても結果は違うかもしれません。

食べ物が好きな犬。

一緒に遊ぶことが好きな犬。

人のそばにいることを好む犬。

外へ出ることを楽しみにしている犬。

犬によって、またそのときの状況によって、「欲しいもの」は変わります。

犬を対象にした研究でも、食べ物と人との接触のどちらを好むかには、犬や状況による違いがみられています(Feuerbacher and Wynne, 2014)。

人が「ごほうびをあげた」と思うことより、その犬がどう感じているかを見ることが大切です。

飛びつく犬なら?

例えば、人に会うと飛びつく犬を考えてみます。

犬は人と関わりたくて飛びついているのかもしれません。その場合、飛びついたときだけを見て対応するより、四本の足を床につけているときに人と関われるようにします。

立っている(四本の足を床につけている)ときに声をかける。

座ったら人が近づく。

落ち着いて近づいてきたら触れ合う。

そうすると、「飛びつかなくても人と関われる」という方法を犬が使えるようになるかもしれません。

大切なのは、「おすわりをさせること」そのものではありません。その犬が求めていることを、別の方法でも得られるようにすることです。

吠えていなければ、それでよいわけではない

ここは少し気をつけたいところです。

犬が吠えなくなったとしても、それだけで「うまくいった」とは言えません。

怖いものを前にして、犬が黙って固まっていることもあります。

震えているかもしれません。

逃げたいのに逃げられないのかもしれません。

ですから、「吠えなくなった」「飛びつかなくなった」という結果だけではなく、そのとき犬がどんな様子なのかも見ます。

犬を静かにすることが目的なのではなく、犬にも人にも無理の少ない方法を探すことが目的です。

犬が選べる方法を増やす

分化強化という言葉は、少し難しく聞こえますが、実はそれほど難しくありません。

「それをするな」と伝え続けるのではなく、「こっちの方法でも大丈夫だよ」という選択肢を犬に増やしていく。私は、そんなふうに考えると分かりやすいと思っています。

吠えなくても気づいてもらえる。

飛びつかなくても人と関われる。

無理に近づかなくても距離を取れる。

怖いときには離れることができる。

もちろん、すべての行動を家庭だけで変えようとする必要はありません。

痛みや病気が疑われるとき、強い恐怖が続いているとき、犬や人の安全に関わるときには、獣医師などの助けが必要になることもあります。

でも日々の暮らしの中には、飼い主自身が少し観察することで気づけることもたくさんあります。

「どうやってやめさせよう」ではなく、

「この犬は何をしようとしているんだろう」
「別の方法はあるかな」

と考えてみる。

そこから始めるだけでも、犬との関わり方は少し変わってくると思います。

参考文献

Feuerbacher, E.N. and Wynne, C.D.L. (2014) ‘Most domestic dogs (Canis lupus familiaris) prefer food to petting: population, context, and schedule effects in concurrent choice’, Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 101(3), pp.385–405.
https://doi.org/10.1002/jeab.81

Protopopova, A., Kisten, D. and Wynne, C.D.L. (2016) ‘Evaluating a humane alternative to the bark collar: Automated differential reinforcement of not barking in a home-alone setting’, Journal of Applied Behavior Analysis, 49(4), pp.735–744.
https://doi.org/10.1002/jaba.334

※この記事は2022年10月6日に公開した内容を、その後の学びをもとに見直したものです。

藤森

犬研|犬の行動を知り、犬との暮らしを考える

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